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MMTが示す財政赤字を拡大すべき理由

新規国債発行額 初の100兆円超え

 昨年はコロナ禍による影響で政府の⼀般会計税収は当初想定を8兆円程度下回る55兆円。

20年度の新規国債発⾏額は初の100兆円超えとなります。財政再建への道筋が⼀段と険しくなりますが、深刻な不況に陥る事態を防ぐためにもやむを得ません。問題はその財源をどこから持ってくるか。20年度の税収は企業業績の低迷で法⼈税などが落ち込み、当初の63.5兆円から第3次補正後に55.1兆円まで下⽅修正しています。⾜りない分は国債による借り⼊れになりますが、⽇本はすでに対GDP⽐で200%を超える借⾦⼤国。先進国の中で最も多くの借⾦を抱えています。このような状況下では、いよいよ⽇本の財政破綻を危惧する声も多くなってきています。


財政赤字は悪なのか MMTが世界を救う?

 さて、現代貨幣理論(MMT)という⾔葉をご存じでしょうか。2019年頃から活発に議論されるようになってきた新しい経済理論ですが、その論旨は“⽶国や⽇本のような「通貨主権」を持つ国(望むだけの通貨を発⾏できる国)にとって、財政⾚字は必ずしも悪ではない”としています。なぜなら、望むだけの通貨を発⾏できる国は、資⾦が枯渇することはり得ず、したがって財政⾚字により政府が借⾦を強いられるというのは思い込みだというのです。であれば、今のコロナ禍による需給不⾜は積極的な財政出動により埋め合わせ、その財源すら⼼配しなくて良い、となります。⼀⾒、荒唐無稽な理論のように聞こえますが、各国政府の積極的な財政出動が求められているコロナ禍の現状において、⽀持派、不⽀持派に分かれて熱い議論が展開されていることも事実です。まずは偏⾒を脇に置いて、その考え⽅を理解することで、これまでとは違う視点で経済やお⾦の流れを⾒ることができるかもしれません。



税金が通貨に価値を与える 政府が本当に欲しいもの

 私たちが何かを購⼊しようと考えるとき、⽀出する前にまずお⾦を⼿に⼊れる必要があると考えます。同じように政府が政策を実⾏するための資⾦源は、国⺠から税⾦を取るか国⺠の貯蓄から借りるか(国債)しかないと考えるのがこれまでの常識です。しかし、MMTはこれを否定します。望むだけの通貨を発⾏できる政府にとって、国⺠からの税⾦や国債による借り⼊れの⽬的は資⾦を調達することではありません。では、その⽬的は⼀体何か─。


 ⽶国の経済学者であるステファニー・ケルトン⽒の著書、『財政⾚字の神話』の中で、⽗親と⼦供たちを使った税⾦についてのわかりやすい エピソードが出てきます。


 ある時⽗親は家を清潔で⼼地よく保つため、⼆⼈の⼦供たちに協⼒を求めます。


「遊ぶのを少し我慢してパパのお⼿伝いしてくれたらパパの名刺をあげよう。ベッドを整えたら3枚、⽫洗いは5枚、洗⾞は10枚」


それから数⽇―。家は当然きれいになりません。


「おまえたち、なぜ何も仕事をしないんだ」

「ねえ、パパ。なんでパパの名刺をもらうために働かなきゃいけないわけ?何の価値もないのに」


そこで⽗親は⼦供たちにこう⾔います。


「君たちに⼿伝いは⼀切求めない。ただ毎⽉、 パパの名刺を30枚払ってほしい。できなければ、⾊々な特典を取り上げる。テレビもプールも使わせない。ショッピングモールにも連れていかない」


 ⽗親は⾃分の名刺でしか払えない「税⾦」を⼦供たちに課したのです。ここでようやく名刺に価値が⽣まれました。それから数時間も経たないうちに⼦供たちはお⼿伝いに⾛り回り、家は清潔で⼼地よくなりました。それまで価値のない⻑⽅形のカードに過ぎないものが、突然価値のある⾦券とみられるようになりました。穏やかに暮らしていくためには⽗親の「通貨」を稼がざるを得ない状況に追い込んだからです。⼦供たちはお⼿伝いをするたび、労働の対価として名刺を受け取り、⽉末になると⽗親に返します。本当は⼦供たちから名刺を回収する必要はありません。⾃分が発⾏した⾦券を回収したって仕⽅がないし、⽗親はすでにこの取引でほしいものは⼿に⼊れているからです。それならなぜわざわざ名刺を税⾦として⼦供たちから取り上げたのでしょう。理由は単純です。⼦供たちを翌⽉また名刺を稼がなければならない状況に置くためです。こうして必要なサービスが提供され続ける好循環が⽣まれました。


 MMTによれば税⾦の⽬的は、世の中に通貨への需要を⽣み出すこと。政府は独⾃の通貨を定め(ドル、円など)、税⾦その他の債務をその通貨で⽀払うことを義務づけることによって、本来無価値の紙切れに価値を与えます。実際、通貨を発⾏する政府が欲しいものは⾦銭ではなく、私たちの時間(軍隊、公共の公園、病院、道路など)です。国⺠に国家のために何かを⽣産させるために、政府は税⾦などの⾦銭的負担を課すのです。


黄色いドルと緑のドル 財政と家計は同じではない

 税⾦の存在理由が、資⾦調達ではないのと 同様、国債による借り⼊れの⽬的も資⾦調達ではありません。政府は国⺠に種類の異なる政府通貨、すなわち多少の⾦利を払う通貨を提供することを「⾃ら選択している」に過ぎません。⽶国債であれば⾦利付きの⽶ドルです。政府から この⾦利付きの⽶ドルを購⼊するには、まず政府通貨を⽤意する必要があります。前述の『財政⾚字の神話』の中で、ステファニー・ケルトン⽒は⾦利付きドルを「⻩⾊いドル」、ふつうのドルを「緑のドル」と区別して以下のように説明しています。


 政府が税収を上回る⽀出をするとき、それは 財政⾚字と呼ばれます。この⾚字は「緑のドル」の供給を増やします。5兆ドルの政府⽀出に対し、税収が4兆ドルしかない場合、アメリカ政府は1兆ドル分の⽶国債を売り出します。私たちが政府債務と呼ぶものは、政府が⼈々に「緑のドル」を、⾦利収⼊の得られる「⻩⾊いドル」に交換する機会を与えていることにほかなりません。私たちが住宅や⾃動⾞を購⼊するために借⾦をするとき、銀⾏に札束を持参して融資担当者に⼿渡したうえで、それを購⼊資⾦として貸してほしい、と頼んだりはしません。借⾦をするのはそもそも資⾦がないからです。しかし家計とは異なり、政府はまず⽀出(=通貨を発⾏)をします。それによって市中にドルが供給され、その⼀部が政府の発⾏する債券の購⼊に充てられます。債券を発⾏する⽬的は政府の⽀出をまかなうことではなく、⾦利を維持することです。


 ⽇銀はここ数年、「イールドカーブ・コントロール」と呼ばれる政策を実施し、短期⾦利の固定化に加え、10年物国債の⾦利をおおむねゼロ%で推移するようにしています。この政策を遂⾏するため、⽇銀は膨⼤な量の国債を⽇々買い⼊れており、現在国債残⾼の50%近くを保有するに⾄っています。借⾦⼤国ニッポンとよく⾔われますが、その債務の半分はすでに中央銀⾏が実質的に回収(償還)しているのです。


 MMT派の経済学者であるエリック・ロナガン⽒によれば、仮に⽇銀が明⽇、準備預⾦(貨幣)を 創造し、残り半分の⽇本国債をすべて買い⼊れ、借⾦を帳消しにしても何も変わらない、と⾔います。⽇銀がいきなり500兆円を新たに⽣み出したらとんでもないインフレが起きるに決まっていると、⼤⽅の経済学者は考えます。しかしロナガン⽒は、⽇本国債と現⾦を交換しても、⺠間部⾨の 純資産には何の変化もない、投資家は国債の代わりに「同じ価値の現⾦を保有する」ようになっただけだと指摘しています。



MMTが示す真の制約とは 注目すべきはインフレ率

 通貨主権を持つ政府の⽀出能⼒が無限にあるとすれば、制約は何もないのでしょうか。いえ、そんなことはありません。MMTが教えてくれるのは、必要な実物資源があるならば、⽬標達成に必要な「お⾦」は常に⽤意される、という事実です。つまり私たちに制約を課すものは政府の⽀出能⼒ではなく、経済における⽣産能⼒。経済が制限速度内にある限り、政府は資⾦の回収(税⾦)を上回る供給(⽀出)をし続けなければならないこともあるのです。財政⾚字による通貨流通量の増加が、インフレ率を押し上げない限り、それを過剰⽀出と⾒なすべきではないのです。




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